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東京地方裁判所 昭和53年(特わ)2925号 判決 1983年1月28日

本店所在地

東京都立川市富士見町一丁目二二番二二号

第一重機工業株式会社

(右代表者代表取締役鈴木光)

本籍

東京都立川市富士見町一丁目四二番地

住居

同町一丁目二二番二二号

会社役員

鈴木光

昭和二年九月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人第一重機工業株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人鈴木光を懲役一年にそれぞれ処する。

二  被告人鈴木光に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

三  訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人第一重機工業株式会社(以下、「被告会社」という。)は、東京都立川市富士見町一丁目二二番二二号に本店を置き、土木建築等を目的とする資本金三三〇万円の株式会社であり、被告人鈴木光(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、工事支出金及び給与を水増計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四九年一〇月一日から同五〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一九八六万一二三〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二八日、同市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四八八五万五一六二円でこれに対する法人税額が一八三六万九七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五四年押第三九一号符号1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四六七七万二一〇〇円と右申告税額との差額二八四〇万二四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  同五〇年一〇月一日から同五一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七五三二万三五七二円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月三〇日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二一七万三四四五円でこれに対する法人税額が一八七八万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号符号3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二八〇四万四七〇〇円と右申告税額との差額九二六万円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  同五一年一〇月一日から同五二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が七六一一万五一〇二円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月三〇日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六二三万六二六一円でこれに対する法人税額が八五〇万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号符号4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二八三六万一五〇〇円と右申告税額との差額一九八六万〇一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目―「甲」及び「乙」は検察官請求証拠目録甲一及び乙の番号、「符」は当庁昭和五四年押第三九一号の符番号、「回」は公判回数をそれぞれ示す―)

判示全事実につき

一  公判調書中の被告人の各供述部分(第一、第一七ないし第二〇、第二五回)

一  被告人の収税官吏に対する質問てん末書一四通(乙四ないし一七)及び検察官に対する供述調書(乙一八)

一  証人鈴木きみ子の当公判廷における供述(第二六回)

一  公判調書中の証人鈴木きみ子(第九ないし第一三回、第一六回)、同関谷隆(第二一、二二回)の各供述部分

一  永松勲作成の昭和五三年一〇月二八日付(甲三〇)、同年一二月二一日付(二通、甲三一、三二)各証明書

一  東京法務局立川出張所登記官倉持秀男(甲二八)、同府中出張所登記官竹本惣一郎(甲五三)各作成の登記簿謄本

判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)の修正損益計算書の各勘定科目中の公表金額につき

一  押収してある昭和五〇年九月期、同五一年九月期、同五二年九月期の各確定申告書(符1、3、4)、同五〇年九月期修正申告書(符2)、元帳四綴(符5ないし8)

判示各事実ことに別紙(一)ないし(三)の修正損益計算書の次の各勘定科目中の当期増減金額につき

工事収入金(別紙(一)修正損益計算書の勘定科目中の<1>、以下「(一)の<1>」というように表示する。)、及び前期計上もれ未収金の当期認容額((二)の<44>)

一  収税官吏作成の工事収入金調査書(甲一)

受取利息((一)ないし(三)の各<2>)、債券売却益((三)の<8>)、租税公課((一)の<26>、(二)の<25>、(三)の<27>)

一  土田武夫(甲二二)、鈴木きみ子(甲一二九)の検察官に対する各供述調書

一  佐野俊一(甲二一)、浅野典子(甲一二三)の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の水増し工事支出金等調査書(甲七)、貯金調査書(甲五六)、過 度預金調査書(甲一二二)

一  収税官吏作成の、(甲一一八)、(甲一一九)、(甲一二〇)

一  収税官吏山口富男作成の領置てん末書(甲一一六)

一  加藤俊(甲五七)、野村也(甲五八)、小野口精彦(甲五九)、村上一成(甲六〇)、小川義嘉(甲六一)、山本中司(甲六二)、吉澤一利(甲六三)、鈴村俊蔵(甲六四)、渡辺雅弘(甲六五)、田村忠嗣(甲六六)、和田博純(甲六七)、池田正昭(甲六八)、中村知治(甲六九)、吉岐譽夫(甲七〇)、沖野貞夫(甲七一)、宇田博善(甲七二)、雲林正嗣(甲七三)、辻実(甲七四)、青木保彦(甲七五)、枝克已(甲七六)、島本興一(甲七七)、高橋弘(甲七八)、本田義雄(二通、甲七九、八一)、岡田博之(甲八〇)、川橋安正(甲八二)、森仁(二通、甲八三、八四)、大森泰彦(二通、甲八五、八六)、滝瀬守(甲八七)、平穣(甲八八)、藤島博美(甲八九)、市倉栄(甲九〇)、原藤日出勝(二通、甲九一、九二)、市川幹愛(甲九三)、中川博隆(甲九四)、中村進(甲九五)、松家克磨(甲九六)、今岡健(甲九七)、小暮雅彦(甲九八)、井上実(甲九九)、桜井康勝(甲一〇〇)、鈴木陽子(甲一一〇)、柳原弘(甲一一四)、臼井宏(甲一一五)各作成の証明書

一  長野地方貯金局長(三通、甲一〇一ないし一〇三)、甲府地方貯金局長(二通、甲一〇四、一〇五)、東京地方貯金局長(甲一〇六)、小樽地方貯金局長(甲一〇七)各作成の回答書

一  坂本昭和(甲一〇八)、高木健次郎(甲一〇九)各作成の検査てん末書

一  藤田清次(甲一一一)、前田繁寿(甲一一二)、田中敏(甲一一三)各作成の臨検てん末書

一  東京法務局立川出張所佐藤昌宏(甲一三三)、立川税務署石川栄夫(甲一三五)、株式会社三菱銀行立川支店(甲一三七)、株式会社富士銀行新宿西口支店(甲一三八)、同立川支店(甲一三九)、同新宿支店(甲一四〇)、株式会社住友銀行新宿支店(甲一四一)、株式会社東海銀行新宿西口支店(甲一四二)、株式会社東京銀行新宿支店(甲一四三)、株式会社太陽神戸銀行立川支店(甲一四四)、株式会社協和銀行新宿西口支店(甲一四五)、株式会社埼玉銀行立川支店(甲一四六)、株式会社第一勧業銀行新宿西口支店(甲一四七)、同立川支店(甲一四八)、多摩中央信用金庫本店(甲一四九)、同昭島支店(甲一五〇)、同南口支店(甲一五一)、三菱信託銀行株式会社立川支店(甲一五二)、三井信託銀行株式会社(甲一五三)、住友信託銀行新宿支店(甲一五四)各作成の捜査照会回答書

一  押収してある家計簿二冊及び領収証等一袋(符29の1ないし3)、印鑑二四個入(革袋等を含む)一袋(符30)、印鑑一一五個入一袋(符31)、印鑑二〇個入(印鑑ケース等一六個を含む)一袋(符32)、定期預金計算書等(封筒三袋在中)一袋(符33)、同(封筒八袋在中)一袋(符34)、同一袋(符35)、同(封筒一〇袋在中)一袋(符36)、印鑑二六個一袋(符37)、印鑑一八個一袋(符38)、定期預金お支払計算書等(封筒一三袋その他在中)一袋(符39)、同(封筒一二袋在中)一袋(符40)、同(封筒一八袋在中)一袋(符41)、同(封筒一三袋在中)一袋(符42)、定期預金利息計算書等綴(一綴在中)一袋(符43)、預金等明細メモ一袋(符44)、定期預金計算書等一袋(符45)、印鑑三三個一袋(符46)、定期預金計算書等(小封筒一袋在中)一袋(符47)、同一袋(符48)、同(中封筒二袋在中)一袋(符49)、定期預金お支払計算書等(中、小封筒三袋在中)一袋(符50)、総合口座通帳(多摩中央信用金庫本店斉藤司名義)一冊(符51)、同(多摩中央信用金庫本店石川剛志名義)一冊(符52)、国債貯蓄買付報告書等(小封筒二袋在中)一袋(符53)、定期預金お支払計算書等(封筒二袋在中)一袋(符54)、同一袋(符55)、同(封筒一袋在中)一袋(符56)、同(封筒筒二袋在中)一袋(符57)、定期預金の満期のお知らせ等一袋(符58)、定期預金書替計算書等一袋(符59)、お預り残高明細書等一袋(符60)、定期預金利息計算書等一袋(符61)、定期預金計算書等一袋(符62)、済太陽総合口座通帳(太陽立川、鈴木光名義)一冊(符64)、同(第一勧銀/立川、鈴木寛名義)一冊(符65)、同(多摩中央信金/本店、鈴木良子名義)一冊(符66)、同(多摩中央信金/本店、鈴木良子名義)一冊(符67)、同(多摩中央信金/本店、鈴木きみ子名義)一冊(符68)、同(多摩中央信金/本店、鈴木茂樹名義)一冊(符69)、済普通預金通帳(多摩中央信金/本店、鈴木光名義)一冊(符70)、同(多摩中央信金/本店営業部、鈴木光名義)一冊(符71)、済総合口座通帳(多摩中央信金/本店、鈴木光名義)一冊(符72)、済普通預金通帳(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符73)、済三菱総合口座通帳(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符74)、済普通預金通帳(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符75)、同(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符76)、同(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符77)、同(三菱/立川、鈴木光名義)一冊(符78)、済定期預金通帳(三菱/立川、鈴木きみ子名義)一冊(符79)、同(三菱/立川、鈴木茂樹名義)一冊(符80)、定期預金計算書等(書面九枚及び封筒一袋在中)一袋(符81)、定期預金お支払計算書(一枚在中)一袋(符82)、金銭信託(貸収口)支払計算書等(一〇枚在中)一袋(符83)、定期預金計算書等一袋(符84)、定期預金利息中間支払いのお知らせ(三枚在中)一袋(符85)、済三菱総合口座通帳(三菱/立川、鈴木陽子名義)一冊(符86)、済定期預金通帳(三菱/立川、鈴木寛名義)一冊(符87)、定期預金お支払い計算書等一袋(符88)、定期預金計算書(九枚在中)一袋(符89)、売買報告書等一袋(符90)、定額郵便貯金等支払金内訳書等一袋(符91)、預金メモ等(二冊在中)一袋(符92)、預金等内訳メモ一袋(符95)、預金メモ一袋(符96)、所得税確定申告書控等一袋(符98)、車輌割賦売買契約書等一袋(符99)、金銭出納帳二冊(符100、101)、手帳(表紙に多摩中央信用金庫と表示のあるもの)一冊(符102)、鈴木関係顧客カルテ一袋(符112)、鈴木様取引一覧表一袋(符113)、ダイヤリー77一冊(符115)

雑収入((一)ないし(三)の各<3>)、給料手当((一)の<9>、(二)の<8>、(三)の<10>)、賞与金((一)の<10>、(二)の<9>、(三)の<11>)、法定福利費((一)の<11>、(二)の<10>、(三)の<12>)、損金不算入役員賞与((二)の<42>、(三)の<45>)

一  公判調書中の証人鈴木茂樹(第六、七回)、同大杉良子(第八回)、同大杉喬(第三、四回)、同鈴木寛(第四ないし第六回)の各供述部分

一  鈴木きみ子(甲一二九)、鈴木寛(甲一三〇)、大杉喬(甲一三一)の検察官に対する各供述調書

一  大杉喬作成の昭和五三年九月一日付、同月八日付各上申書(甲二九、三三)

一  収税官吏作成の雑収入調査書(甲五)、給料手当等調査書(甲一二一)、給料手当等調査書抄本(甲三四)、法定福利費調査書抄本(甲三五)

一  山田彰三作成の昭和五三年一一月二二日付捜査報告書(甲二〇)

一  検察事務官作成の昭和五四年六月一六日付、昭和五七年六月一二日付各捜査報告書(甲三六、一五五)

一  押収してある源泉徴収簿兼賃金台帳二綴(符9)、賃金台帳一綴(符10)、給料明細表綴二綴(符11)、一人別源泉徴収簿等一綴(符12)、給料規定等一綴(符13)、賃金計算書一綴(符14)、賃金台帳写一袋(符15)、給料計算書等一綴(符16)、給料支払明細書等一袋(符17)、同一袋(符18)、同一袋(符19)、同一袋(符20)、同一袋(符21)、同一袋(符22)、家計簿一袋(符23二冊在中)、就業規則等一綴(符24)、手帳二冊(符25)、給料明細表綴一綴(符26)、済三菱総合口座通帳一冊(符27)、同一冊(符28)、人事考課表等綴一綴(符93)、秘と表示のノート一冊(符94)、家計簿等一袋(符97)

工事支出金((一)の<7>)、及び支払手数料((一)の<23>)

一  土田武夫の検察官に対する供述調書(甲二二)

一  佐野俊一の収税官吏に対する質問てん末書(甲二一)

一  収税官吏作成の水増し工事支出金等調査書(甲七)

地代家賃((二)の<14>、(三)の<16>)

一  被告人鈴木光作成の昭和五三年一〇月二五日付申述書(甲一〇)

一  鈴木寛の検察官に対する供述調書(甲二四)

一  収税官吏作成の簿外経費調査書(甲九)

交際接待費((一)の<27>、(二)の<26>、(三)の<28>)、損金不算入交際費((一)の<44>、(二)の<41>、(三)の<44>)

一  被告人鈴木光作成の昭和五三年九月一八日付、同年一〇月二五日付各申述書(甲一二、一〇)

一  収税官吏作成の簿外経費調査書(甲九)、給料手当等調査書(甲一二一)

一  収税官吏作成の交際費損金不算入交際費計算書(甲一三)、損金不算入交際費計算書二通(甲一四、一五)

減価償却超過額((一)の<46>)

一  鈴木寛の検察官に対する供述調書(甲二四)

一  収税官吏作成の減価償却超過額調査書(甲一六)

事業税認定損((一)の<47>、(二)の<48>、(三)の<47>)

一  永松勲作成の昭和五三年九月二二日付証明書(甲一八)

(争点に対する判断)

弁護人は、本件各事業年度における被告会社の法人税のほ脱額ないし犯意を種々争っているので、その主要な点について以下に検討することとする。

一  受取利息及び債券売却益について

弁護人は、(一)本件受取利息(金銭信託及び貸付信託の収益金を含む。以下同じ。)の発生源である仮名・無記名預金及び信託(以下、「本件仮名預金等」という。)のうち、有限会社北立土木(以下、「北立土木」という。)に対する工事代金の水増分を定期預金にした二一〇〇万円及び貸付信託にした一五〇〇万円、以上合計三六〇〇万円は被告会社に帰属するが、その他のものは被告人及びその家族ら個人(以下、「被告人ら個人」という。)に帰属するものであり、また、昭和五二年九月期に売却した仮名・無記名債券も、その購入資金は右被告人ら個人の仮名預金等を払戻した金員であるから、右定期預金及び貸付信託の利息分を除いた本件受取利息及び債券売却益は被告人ら個人の所得である。(二)被告人は、本件受取利息及び債券売却益が被告人ら個人に帰属するものと認識し長期間にわたり源泉分離課税の方式により所得税を納付してきたものであるから、被告人には右受取利息及び債券売却益が被告会社に帰属するとの認識がなく、偽りその他不正の行為によって法人税を免れるというほ脱の故意はなかった旨主張するので検討する。

所論(一)について。

前掲各証拠によれば、被告人は米軍立川基地において通訳の仕事をしていた関係から、昭和二四年ころから頭書住居地において進駐軍からブルドーザーのスクラップ等の払下げをうけ、これを組立てて販売するようになり、昭和二九年ころには府中市内に営業所を設置し鈴木商店の名称で家族らとともに建設機械、部品、資材等の販売、賃貸業を始めたが、昭和三五年一〇月一八日右鈴木商店を法人化して被告会社(資本金一〇〇万円)を設立し、その営業を引き継がせるとともに、その代表取締役に就任し、直ちに被告会社としての営業を開始したものであり、その後被告会社は、営業成績も順調に伸び清水建設株式会社の専属的下請となり、重機類を使用した土木工事を主な業務内容としたうえ、昭和四五年一一月には資本金を三三〇万円に増額し今日に至っていることが認められる。

ところで、弁護人は、本件仮名預金等のほとんどは、被告人が法人成り当時有していた建設機械、部品、資材、スクラップ、預貯金及び現金等総額一億円以上の個人資産及びその利息から転化したものであって、これらが被告会社に引継がれてその資産となったことはないから、被告人個人に帰属すると主張するので、まず右の点について検討する。

法人成り当時の被告人の個人資産の状況、特に純資産の額については、かなりの年月が経過しこれを証するに足る客観的な資料も存在しないので、必ずしも明らかではないが、関係証拠によれば、被告会社設立前である鈴木商店当時の被告人の申告所得額は、昭和三一年分二七万九〇〇〇円、同三二年分二九万五〇〇〇円、同三三年分三五万〇〇〇〇円、同三四年分四一万七〇〇〇円、同三五年分六九万四五二五円であるところ、被告人は同三五年一〇月一八日資本金一〇〇万円を全額出資して被告会社を設立したものであるが、被告会社は前記のとおり、被告人がそれまで鈴木商店の名称で営んできた建設機械、部品、資材等の販売、賃貸業をそのまま会社組識にしたものであって設立当初の会社の営業実態も右鈴木商店当時のものと全く同一であり、営業所、什器備品等の物的設備、従業員、建設機械、部品、資材等は勿論、預貯金、現金等の運転資金を含む鈴木商店当時の営業用資産一切を事実上そのまま引継いで、たゞちに被告会社としての営業を開始したものであり、したがって、被告会社の設立に伴い鈴木商店は独自の営業体としての実績を失ったものと認められる。就中、被告人が鈴木商店時代に取得したブルドーザー、クレーン車等の建設機械等は被告会社がそのまま使用し、会社名義で他に賃貸したり売却した賃料、売却代金を被告会社の収益とし、あるいは会社が新たに建設機械等を購入した際の下取りに出すなど、被告会社に帰属するものとして運用管理されていたことは明らかである。また、法人成り当時の被告人の意思についても、被告人及び妻の鈴木きみ子は、捜査段階及び当公判廷において、被告会社の設立が鈴木商店当時からの念願であり、被告会社にすべての夢を託し、生活費をきりつめながら個人資産を会社に投じ、被告会社のために献身的に努力してきたと繰り返し述べているのであり、右供述内容に徴すると、被告人には、鈴木商店当時の建設機械、部品、資材等を法人成り後も個人資産として留保しておき被告会社と併行して営業を継続する意思など全くなかったことが認められる。また被告人が法人成り後に個人の営業活動によって得た収入があるとして所得の申告をした事実もなかったことは関係証拠上明らかである。

右の事実を総合すると、鈴木商店当時の営業用資産は法人成りと同時にそのまま被告会社に引継がれ、建設機械、部品、資材、スクラップ等や、預貯金、現金等の運転資金についても、原則として実質的に被告会社に帰属するに至ったものと認められる。弁護人は被告人の個人資産が事実上被告会社に引継がれたとしてもそのための法的な手続が採られていないので無効であり右被告人の個人資産は現在も依然として被告人に帰属する旨主張するが、資産の譲渡手続に関する私法上の手続の欠缺は右資産が被告会社に事実上移転されたうえ被告会社が譲渡後引き続き現実に右資産を保有し運用してきたという前認定の事実関係のもとにおいては、資産の帰属を決定するうえで何ら支障とならないというべきであるから、所論は理由がない。

ところで、鈴木きみ子は、当公判廷において、本件仮名預金等の中には、被告人が法人成り後も個人資産として管理していた預貯金、現金、資材等の売却代金等から転化したものや、被告人ら家族の実名預金から転化したものがある旨述べている。

しかしながら、関係証拠によれば、本件仮名預金等はいずれも被告会社の簿外資金が預金等されたものであって、被告会社に帰属するものと認められる。すなわち、(1)被告人らは前記北立土木に対する工事代金の水増分(これが被告会社に帰属することは、関係証拠上明らかである。)を脱税の目的で隠ぺいするため、仮名・無記名を使用して簿外預金にしたことを認めているが、他方鈴木きみ子が本件仮名預金等を控えていた預金等明細メモ等(符44、92)によれば、右水増工事代金に関する簿外預金も他の本件仮名・無記名預金と区別なく記載され、しかも右預金等明細メモ中には一部に帰属ないし性質が異なることを窺わせるような表示もないことに徴すれば、少なくとも右預金等明細メモ等を作成した鈴木きみ子において、本件仮名預金等を被告人ら個人の個人預金としては取り扱っておらず、いずれも被告会社の簿外預金として取り扱っていたことが認められる。右の点に関し鈴木きみ子は、本件仮名預金等がいずれも被告人ら個人の預金であり、銀行員から勧められ主に相続税対策で仮名・無記名とした旨述べているが、本件証拠にあらわれた預金残高の推移をみると、被告人ら個人の実名を使用した預金及び信託の残高が多額になり過ぎたため、仮名・無記名預金にしたという経過は全く窺われないのであるから、相続税対策のために仮名・無記名を使用したという供述はいかにも不自然かつ不合理であり、他方、もし同女の供述のとおりであるとすると、被告人ら個人の給料及び賞与等を預金した場合も右と同様の考慮が払われて然るべきであるのに、鈴木きみ子はこの場合についてはすべて実名を使用したと述べるのみで、なぜこの場合には相続税対策を考慮しなかったのかの説明がなく、結局同女の前記供述はにわかに措信できない。(2)鈴木きみ子自身本件仮名預金等のいずれが同女の述べる前記個人の資産から転化したものか何ら具体的に述べているわけではなく、これを裏付けるに足る資料も存在しないところ、かえって、被告人ら個人の個人別実名預金残高の推移とその原資を検討すると、右家族の実名預金においてすら、従業員に対する給料、賞与の水増計上等によって捻出した被告会社の簿外資金がかなり投入されているものと認められる。(3)昭和四九年九月末日現在の本件仮名預金等の残高は二億円余であるが、被告人はその原資につき、査察官に対し、同日までに被告会社において受領した残土処分代六〇〇〇万円ないし七〇〇〇万円、人工代の水増分五〇〇〇万円ないし六〇〇〇万円、法人成りの際に被告人から引継いだ建設機械、資材等の売却代金約二〇〇〇万円、仮名・無記名預金等の利息(それまでの被告会社の簿外預金である仮名預金等の元本に満期の到来したものの利息を加算して仮名預金等に書替えたもの。)等がこれにあたると述べ、本件仮名預金等の額にほぼ相当する簿外預金が存在したことを具体的に供述しているところ、右供述にあらわれた簿外資金の内容及び金額については関係証拠とくに弁護人提出の法人成り当時の資産状況等に関する証拠に照らしても合理性が認められこそすれ、右供述を疑わしめるものはなく、また、その後の増加分についても、右原資を転化した仮名預金等の利子及び北立土木に対する水増工事代金の分を勘案すると、その増加額は自然であり、そこに個人預金等を混入したことを疑うべきものはない。

以上の事実を総合すると、本件仮名預金等はその源泉に遡って具体的に原資を特定することはできないにしても、いずれも被告会社の簿外資金を蓄積した結果であると認めるに足りるのであり、仮に本件仮名預金等の一部に被告人ら個人の預金等から転化したものが若干あったとしても、右認定事実からすれば、その金額は僅かであるうえ、被告人及び鈴木きみ子が査察段階及び当公判廷において、本件仮名預金等は個人のために蓄積したものではなく、被告会社の将来に備えたものであると繰り返し述べており、また、被告人が査察官に対し、家族名義の預貯金で本件仮名預金等になっているものが皆無だとはいわないが、とるに足らない金額であり、仮にそういうものがあっても、被告会社に無利息で貸付けたものと解釈してよいと述べていること、被告人が、査察段階において、一貫して本件仮名預金等が被告会社の簿外預金であることを認め、査察官から調査し判明した結果を顧問税理士とともに説明を受け、本件仮名預金等が被告会社に帰属することについても了解したうえ修正申告をなし、すでに納税を完了していること等の事情を併せ考えると、本件仮名預金等は実質的に被告会社の資産となり、被告会社に帰属するものと認めるのが相当である。

弁護人は、被告人の前記収税官吏に対する質問てん末書の信用性を争い、右てん末書において、被告会社の簿外収入となったと供述している残土処分代及び人工代の水増分について具体的な根拠もこれを裏付ける客観的な証拠もないと主張するが、被告人及び証人鈴木きみ子は、当公判廷において残土処分代の収入があったこと自体はこれを認めているのであり、ただこれを被告人個人の所得であったと主張しているに過ぎないものであり、人工代の水増分については、被告人の前記質問てん末書によれば、裏帳簿の類のものは一切記帳したことがなく、関係者においても帳簿処理をしていないというのであるから、弁護人の非難はあたらないというべきである。

ところで、関係証拠によれば、右残土処分代も前記工事代金や人工代の水増分と同様に被告会社の簿外収入として被告会社に帰属したものと認められる。すなわち、残土処分代は被告会社が基礎工事を行った際発生した残土を売却した代金であるところ、残土自体被告会社の工事により生じたものであり、被告人ら残土の斡旋も、残土を埋立工事現場に運搬する等の従業員の作業も一切被告会社の業務の一環として行われたものであることはいうまでもないから、被告会社の業務により生じたものとして会社に帰属する収益であり、所論のように被告人が会社とは別に行った残土仲介手数料として被告人個人の所得となる筋合のものではない、もっとも、鈴木きみ子は、右残土仲介手数料について、被告人の臨時収入であると述べているが、残土の処分が会社の業務である以上その残土の売却代金が会社の収入になることは明らかであるうえ、被告人が残土処分代を妻きみ子に手渡す際、工事代金の水増分の場合と同様に、出所を明らかにせずきみ子に保管しておくように申し付け、きみ子においても工事代金の水増分と同趣旨の金員として被告人の給料や賞与とは明確に区別したうえ保管していたことが認められるから、右鈴木きみ子の供述は措信できないものである。以上の次第で残土処分代が被告会社の簿外資金となったことは明らかである。

また、弁護人は、本件仮名預金等の残高は昭和四九年九月末日現在から同五〇年九月末日現在まで四九六四万一七一三円増加しているが、そのうち普通預金及び定期積立金の増加分は少額であるから個人が預金したものと認められるし、金銭信託の増加分は貸付信託の収益金を積みたてたものと考えられるので、結局定期預金及び貸付信託の増加分四八五三万三四三四円の資金源が問題となるが、右増加分から本件工事代金の水増分三六〇〇万円を控除した一二五三万三四三四円が不明分となるところ、これは昭和四九年九月末日現在で存在した被告人ら個人の仮名預金等二億一五一万八〇二五円の利息及び収益金を定期預金及び貸付信託にしたものが大部分であると考えられるので、右工事代金の水増分三六〇〇万円を除いた本件仮名預金等は被告人ら個人に帰属すると主張する。

しかしながら、右昭和四九年九月末日現在の本件仮名預金等の残高が被告会社の簿外預金であることはすでに述べたとおりであるから、その利息及び収益金が書き替えられた右定期預金及び貸付信託も被告会社に帰属することは明らかであり、また前記普通預金及び定期積立金の増加分だけ被告人ら個人が預金したものとはとうてい認められないので、所論は採用できない。

以上のとおりであって、本件仮名預金等及びその受取利息は被告会社に帰属するものと認められる。そして、弁護人が右本件仮名預金等の払戻金で購入したと主張する本件仮名・無記名債券及びその売却益も被告会社に帰属することはいうまでもない。その他、右仮名預金等の帰属に関し所論がるる主張するところをすべて検討しても、右認定を左右しない。

所論(二)について

すでに検討したとおり、本件仮名預金等及び仮名・無記名債券は、いずれも被告人が被告会社の簿外資金を鈴木きみ子に保管させるなどしたうえ脱税のためこれを隠匿する目的で仮名・無記名を使用し預金等をしたものであって、被告人において右仮名預金等の受取利息及び債券の売却益が被告会社に帰属することを認識していたことは明らかであり、被告人にほ脱の故意があったことも十分認められる。本件仮名預金等の利息につき源泉分離課税の方式により所得税が納付されていたことは、右認定を何ら左右するものではなく、他にこれを覆えすに足りる証拠もない。

二  従業員に対する給料手当及び賞与について。

弁護人は、(一)検察官が水増計上分として主張する従業員に対する給料及び賞与のうち、鈴木寛ら被告人の家族である従業員(以下、「家族従業員」という。)に対する分については、実際に給料及び賞与として支給されたものであり、水増計上したものではない。(二)従業員に対する本件賞与のうち、昭和五〇年九月分については同年一一月二一日に、同五二年九月分については同年一〇月五日にそれぞれ支給されているが、右各事業年度内である九月中に各従業員に対する支給額が確定され、これに相当する現金を銀行預金から払い戻したうえ、被告会社の金庫ないし被告人の自宅に保管していたのであるから、右賞与は右各事業年度内に債務として確定していたものである。(三)被告人は、被告会社の簿外交際費の財源を合法的な方法で捻出するため苦慮していたところ、税務の専門家である永松税理士から、これを給料として支給することについて従業員から承諾を得ればその給料を何に使用しても税法上問題はないが、給料として支給するのであるから源泉所得税等を納付しなければならない旨の教示、指導を受けたので、被告人は右指導に従って従業員からその旨の承諾をとりつけ、従来の給料のほか新たに営業手当を加算して支給し、源泉所得税等を納付したうえ、会社の簿外交際費として使用し、その後賞与についても右と同様の方法をとっていたものであり、被告人には右営業手当及び賞与について被告会社の簿外資金という認識はなかったのであるからほ脱の故意はなく、当時被告人は法律に無知であり、前記永松税理士の教示、指導を全面的に信用していたので違法性の認識もなかったものである、と主張するので検討する。

所論(一)について

関係証拠を総合すると、家族従業員に対する給料及び賞与についても、後記家族以外の従業員の場合と同様、水増計上されたものであることは明らかである。すなわち、関係証拠によれば、(1)被告会社には賃金、賞与、各種手当等について定める就業規則及び給与規定の原案(符24)が作成されており、概ねこれにより従業員の給料及び賞与等を支給し、昇給の際には給与辞令を従業員に交付していたが、右の取扱は従業員が家族であるかないかで何ら区別されずに行われており、このような運用は被告会社設立以来ほゞ一貫して行われてきたものである。ところで、本件各事業年度において家族従業員に交付された給与手当辞令や給与支給の際に渡された支払明細書も、家族以外の従業員に交付されたものと全く同一の内容のものであり、検察官が主張する水増計上分に相当する営業手当及び賞与の記載はない。(2)被告人は、本件各事業年度における給料及び賞与の支給に際し、経理担当者に指示し、水増計上した額(公表計上額)と実際支給額とを明確にしておくため、水増計上した額については源泉徴収簿兼賃金台帳(符9)、給料明細表綴(符11)に、実際支給額は一人別源泉徴収簿等綴(符12)、賃金台帳(符10)、賃金計算書(符14)等にそれぞれ区別して記載させているが、右水増計上額及び実際支給額の取扱について家族従業員と家族以外の従業員で何ら区別されていない。(3)家族以外の従業員に対する実際支給額は、当該従業員に直接交付され、他方、水増計上相当分については経理担当者から鈴木きみ子に一括交付され保管処理されていたが、家族従業員に対する分についても右と同様に処理されていたものと認められる。(4)被告人のほか、経理を担当した大杉良子、同喬らはいずれも査察段階において一貫して被告人の指示により家族従業員についても給料及び賞与を水増計上したことを認めており、その供述内容は関係証拠とも符合し十分信用できる。

右事実を総合すれば、被告人は、家族従業員についても家族以外の従業員の場合と同様に給料及び賞与の水増計上をしていたことは明らかであって、被告人もこのことを十分認識していたものと認められる。

ところで、被告人及び鈴木きみ子は、当公判廷において、家族従業員は家族以外の従業員と異なり、得意先を接待したり、冠婚葬祭に出席したり、また、休日や深夜遅くまで稼働することがしばしばあり、そのため他の従業員より多額の給料及び賞与を支給していた旨供述するが、通常右の程度のことで他の従業員より特別に優遇し本件のように多額の給料及び賞与を支給することは不自然かつ不合理であること、しかも、もし真実の給料及び賞与の昇給であれば、昇給に際しては従前の給料及び賞与額のほか、経験年数、能力等従業員ごとに差がもうけられて然るべきところ、本件では家族従業員についてもほぼ一律に増額されているうえ、その額も家族以外の従業員のそれと同額であって、従前の給料及び賞与額を大きく上まわること、家族従業員に対する右増額の時期が家族以外の従業員に対し水増計上を始めた時期と一致すること等の諸事実に徴すると、右被告人らの公判供述はとうてい採用できない。

また、鈴木きみ子は、被告会社の経理担当者から受け取った本件営業手当及び賞与のうち、家族従業員の分については、他の従業員の分と区別して保管し、これを家族従業員のために実名で預金等をしたり、家族従業員のローンの返済や簡易保険の保険料の支払に充てるなどして現実に定期・定額のものを支給していたものであり、簿外交際費等に支給したこともない旨供述し、鈴木寛、大杉良子らもこれに沿う供述をしている。しかしながら、すでに結婚し被告人ら両親から独立した鈴木寛、大杉良子らが右のような形で営業手当及び賞与の支給を受けていたというのはいかにも不自然であり、ことに鈴木きみ子らは、大杉喬が良子と結婚してからは家族従業員として扱い、同人に対する従前の水増給料及び賞与とは異なり現実に支給するようになったというが、経理を担当することになった右大杉喬から同人分についても従前と同様にきみ子が一旦受け取って保管したうえ、これを大杉喬の妻である良子に渡していたというのは不可解というほかなく、良子については退職後もかなりの期間従前同様に給料が支給されていたことも併せ考えると、右鈴木きみ子らの供述は措信できない。

以上により、所論は採用できない。

所論(二)について

従業員に対する本件賞与が一般管理費に該当し、事業年度の終了の日までに賞与金の支払債務が具体的に確定すれば当該事業年度の損金として計上できること、被告会社では従業員に対し毎年七月、九月、一二月の三回の賞与を支給してきたこと、昭和五〇年九月分の賞与が同年一一月二一日に、同五二年九月分の賞与が同年一〇月五日にそれぞれ支給されたことはいずれも所論のとおりである。

ところで、関係証拠を仔細に検討してみると、前記被告会社の就業規則及び給与規定の原案によれば、「賞与は当該年度の会社の業績を考慮した上、従業員の過去六か月の勤務成績等に応じて基本給を基準として毎年夏季及び年末に支給する。」(給与規定二九条一項)と定められ、これをうけて前記のとおり毎年七月と一二月に支給されているほか、九月にも支給されていたが(九月分については右の給与規定に定めがないが、被告人は期末の決算月でもあり、従業員の労をねぎらう意味で賞与を支給していたと述べており、臨時賞与と考えられる。)実際の支給日については、「賞与の支給期日はその都度定めるものとする。」(同二九条二項)とされ、実際にも被告人が支給日に従業員を営業所に集め、社長室において各従業員に直接手交していた関係等から一定せず、結局被告人の意志によってその都度定められていたこと、被告会社においては、本件昭和五〇年及び同五二年の各九月分の賞与を除き、いずれも賞与の支給日と定められた日に実際に支払われていることが認められ、一方、後記のとおり右各賞与の支給につき九月中に従業員に対する通知がされた形跡もなく、かえって昭和五〇年分については一一月二一日の支給に至るまで従業員から支払の要求があった形跡すらないことに徴すると、被告会社においては被告人の定めた実際に支給される日に各従業員に通知され賞与の支払債務が確定していたものというべきである。

ところで、被告人及び大杉良子らは、当公判廷において、本件昭和五〇年及び五二年の各九月分の賞与につき、各同月中に従業員に支払うべき賞与の額が具体的に算定され、経理担当者がこれを銀行から払戻しを受けて各従業員の分を賞与袋に入れて配分し、被告会社の金庫に保管又は妻きみ子が自宅に保管しており、いつでも支給できる状態にあったものであるから、賞与支払債務は確定していたかのように述べ、また、被告人は当公判廷において、昭和五〇年九月分の賞与について従業員の何人かが九月頃退職するという問題が生じ、従業員が期末の賞与の支給を受けた直後に退職するのでは被告会社の業務に支障が生ずるため、その支給を一時延期したと供述しているが、右各供述を裏付けるに足りる資料は全く存しないうえ、九月頃の退職の問題のために翌々月である一一月二一日まで支給が延期されたり、従業員に対する賞与の支払債務が九月中に確定していながら、一一月二一日までの間に従業員から支払の要求がなされた形跡がないというのはいかにも不自然であること、被告人が査察段階で述べているように、昭和五〇年及び同五二年の各九月期の賞与として計上せんがために帳簿上同月中に実際支給されたかのような工作がなされていること、右各賞与の支給につき九月中に従業員に対し通知がなされた形跡がないこと等を併せ考えると、前記被告人及び大杉良子らの供述は信用できない。所論は理由がない。

所論(三)について

被告人は、検察官に対する供述調書及び収税官吏に対する質問てん末書において、元請の清水建設や被告会社の下請業者に対する付き合い上の接待交際費を捻出し、また被告人らの念願である被告会社の資本金を一億円にするため、簿外資金の蓄積を企画し、昭和四九年九月ころ、従業員の中で信頼できる高橋昌治、土田武夫、松浦進、菅原七郎、斉藤茂、大杉喬らを立川市の料理店「源助」に呼び集め、その席で、給料の水増計上をするが、これは給料として従業員に支給しないで、会社の簿外交際費に使うこと、水増計上に伴う源泉所得税等一切は会社が負担し従業員には損をかけないこと等を話して出席した従業員の了解をとり、昭和四九年一〇月分の給料から営業手当として給料の水増計上をし、その後賞与についても水増計上をして、これらを会社の簿外交際費に使用するなどした旨述べているが、右被告人の供述の内容は詳細かつ具体的であって、関係証拠とも符合し十分信用できる。被告人及び鈴木きみ子らは、当公判廷において、所論にそう供述をしているが、関係証拠によれば、前記のとおり、被告人の指示により被告会社の経理担当者が右従業員らに対する給料及び賞与の水増分について裏帳簿を作成するなど明らかに隠匿工作をしていること、右給料及び賞与の水増分は、被告会社の経理担当者において管理されず、すべて現金で鈴木きみ子に渡され、簿外交際費等に使用されるなどしているが、所論のとおり被告人らが右従業員の給料及び賞与の水増分について合法的なものであって、許されるものと認識していたのであれば右のような管理方法等をとっていたことは不可解というほかなく、被告人らの右公判供述はとうてい信用できない。以上によれば、被告人が被告会社の簿外交際費等の裏資金を捻出する意図のもとに前記従業員らに対する給料及び賞与の水増計上を敢行したことは明らかであって、被告人の故意に欠けるところはない。所論は理由がない。

三  租税公課、法定福利費、雑収入について。

本件受取利息及び債券売却益や給料手当及び賞与金について、すでに述べたとおり、いずれも理由がないので、租税公課、法定福利費、雑収入に関する弁護人の主張はいずれも採用できない。

四  工事収入金、減価償却超過額について。

弁護人及び被告人は、工事収入金及び減価償却超過額について、当初公判廷において特に争わなかったが、最終弁論において弁護人がいずれも計算ミスに過ぎないからほ脱の故意がないと主張するに至ったものであるところ、本件全証拠を検討しても所論主張の事実を認めるに足る証拠はなく、かえって本件ほ脱の経緯や申告状況、ことに本件申告はいずれも被告人と被告会社の顧問税理士との事前の相談の結果として行われたものであるが、本件工事収入金及び減価償却費について杜撰な処理がなされているのであり、これらは税理士の専門的知識をもってすれば容易に適正な申告をなしうる事項であるのに、敢えて右のような処理が税理士によって行われていること等を考えると本件工事収入金の除外及び減価償却の過大計上について被告人のほ脱の故意に欠けるところはないと認められる。所論は理由がない。

なお、検察官主張にかかる各事業年度の受取利息の数額につき、一部証拠に符合しない部分が存在したので、関係証拠ことに収税官吏作成の簿外預金等明細表(甲一一九)、島本興二作成の証明書(甲七七)、松家克磨作成の証明書(甲九六)、定期預金計算書等(封筒一〇袋等在中)一袋(符36)、定期預金お支払計算書等(封筒一八袋在中)一袋(符41)、定期預金計算書等一袋(符45)等により、(一)ないし(三)の各<2>のとおり認定した。また、本件各事業年度の事業税認定損((一)の<47>、(二)の<48>、(三)の<47>)は、東京都都条例の事業税率によって算出した。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条

2  被告人

いずれも行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

二  刑種の選択

被告人につき各懲役刑選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき刑法二五条一項

五  訴訟費用

被告人両名につき刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

よって、主文のとおり判決する。

(求刑被告会社につき罰金一七〇〇万円、被告人につき懲役一年)

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 岸嚴(主任)、笠井浩二

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正損益計算書

第一重機工業株式会社

自 昭和49年10月1日

至 昭和50年9月30日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

第一重機工業株式会社

自 昭和50年10月1日

至 昭和51年9月30日

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

第一重機工業株式会社

自 昭和51年10月1日

至 昭和52年9月30日

<省略>

別紙(四)

税額計算書

<省略>

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